『緑のデザイン 住まいと引き立てあう設計手法』 園三 著
推薦
園三さんは建物と家主の関係性だけでなく、周囲の風景や過去・現在・未来を読み込みながら庭をデザインしていきます。まるで木々や苔、石と対話するように。
平安時代に書かれた日本最古の園芸書『作庭記』に、〈むかしの上手のたてをきたるありさまをあととして、家主の意趣を心にかけて、我風情をめぐらして、してたつべきなり〉という一節があります。
園三さんの『緑のデザイン』は、まさに一千年後の『作庭記』です。
永江朗(ガエまちや庭主)
木々を増やすだけでなく、ときには無くすことで良いバランスが生まれる事や、一つの要素だけを見るのではなく、取り巻く環境同士が互いに歩み寄れる関係をつくることが大切だと教えてくれたのは、学生時代に指導を受けた恩師でした。庭をデザインする仕事をしていると、つい庭だけに目が向きがちになり、建築と庭を別の空間として見てしまうことがあります。しかしそれぞれを切り離して考えるのではなく同じ空間として捉えて見るようにすると、建築の美しさを引き立たせる木々のあり方が自ずと見えてきます。作庭の計画を立てるときも、常にこの「庭と建築の調和」について考えてきました。
「園三」という会社を設立してからは、恩師の教えを体現するデザインを探求しながらも、ただひたすら庭づくりの現場に向き合い、日々の仕事に没頭してきました。そんな日々を送っていたある年末に、学芸出版社の岩切江津子さんから建築に合う庭のつくりかたを本にできませんか、というお話をいただきました。それからの岩切さんとの度重なる打ち合わせは、日々私の頭の中で考えていることをどんどん引き出してくれ、気づけば5年も経ってしまいましたが「なんとなくいい」という景色を丁寧に紐解いた本ができました。
造園業を営んでいた両親は「世界を緑にしたい」という大きな夢を掲げ、私も子どもの頃からそれを聞いて育ち、迷うことなく造園業の道に進みました。独立してからは、一軒の庭からほんの少しでもまち並みが変わり、それがつながり、世界を緑にしていく足がかりとなると信じて庭を作ってきました。緑の景色は、その美しさを眺めるだけでなく暮らしの場を拡張させることで、さらに生き生きとした「空間」として時を紡いでいきます。そしてその暮らしが続いてこそ、緑の世界も広げることができるのだと思います。庭主や建築家との当時のやりとりを懐かしく思い起こしながら、時には楽しく時には反省しながら長い時間をかけてできたこの本の中に、全てではありませんが、これまで多くの経験と知恵を詰め込みました。本書をきっかけに、これからも、庭主、建築家、庭をデザインする私たちとともに、緑のある暮らしを広げていけたらと願っています。
第1部 建物と引き立てあう緑の設計
【 1 スケールを操る】
1 傾斜地に立体的な散策体験をつくる HX-villa
・景色を豊かにする道路境界沿いの植栽帯
・斜面地を活かした雑木の庭
・建築の開口に合わせてモミジの景色をつくる
・テラスにつなげる庭の余韻
・斜面を切り取りリビング・ダイニングを拡張する
2 平屋に効く見え隠れのシークエンス 岐阜の家
・大判の鉄平石を用いた外玄関への階段アプローチ
・人を迎え入れるもてなしの空間
・サプライズのシダレウメ
・プライバシーを守り奥行きをつくるスダジイ
・芝生とタマリュウは鉄板で見切る
・山野の景色を切り取る小さな中庭
3 1本の木を選び抜く“疎”の景 N Residence
・1本のケヤキで魅せる
・樹形へのこだわり
・ヒメシャラと水盤の潤い
・小さな中庭に合わせたスリムなアセビ
4 小さな木立で誘う切妻屋根へのアプローチ I Residence
・奥へ誘い込む彩り豊かなアプローチ
・まちの並木を借景としてつなぐ
・日陰を逆手に取った引き算の空間
・森の中のような入浴時間
5 野趣あふれる軒と枝の取り合い T Residence
・重厚な軒の水平性、軽快な枝の垂直性
・野趣に富む路地奥の狭小空間
・樹形を引き立てる背景としてのデッキ
・植栽帯と樹形のバランス
6 石と鉄で修景する段差と動線 玄以の家
・段差を活かしたシークエンスと回遊動線
・壁越しに公私の景色をつなぐ
・地に馴染む時間を見せる
・見切りのつくりかた、飛び石のしつらえ
・雨水さえも景色にする
7 木々のレイヤーで奥行を増幅させる F Residence
・中庭のレイヤーで奥行を出す
・室内に飛び込むような樹形
・和の要素をできるだけ自然に溶け込ませる
・着座の目線を帯状の緑地で彩る
8 景色の断片を散りばめて暮らしを彩る 平屋建てのコートハウス
・袖壁を挟み2方向から楽しめる景色
・動きのある樹形を活かす
・常緑樹越しの採光がつくる落ち着き
・ステンレス板でシャープに見切る山野の景色
・背景を整え木々を引き立てる塀
・まち並みに寄与するサクラの庭
9 高木の列植で厚みのある陰影をつくる 名古屋の家
・建築の重厚感に負けない緑
・木洩れ日を拡散させる水盤
・鉢植えを見切ってつくる景色
・無機質なコンクリートの印象を和らげる
【 2 体験を落とし込む】
10 細道空間を活かした緑のトンネル 石畳のある家
・足触りを楽しめる石畳
・木の懐をくぐりぬける細道空間
11 下草を密植して瑞々しさを可視化する 楓の庭
・開放的な“疎”の庭
・和室の景をつくる“密”の庭
・庭の背景となる板塀と簾
・「不等辺三角形」による作庭と修景
12 五感をともなう空間体験を点在させる 春日井の家
・暮らしを彩る四つの庭
・緑の目隠しでプライベートを保つ
・庭の主役は大きな既存木
・食卓が楽しく・美味しくなる庭
・古いブロック塀はツルで緑化
13 キッチンガーデンには余白と高さをつくる 別棟のある家
・ドライな植生に仕上げる
・キッチンガーデンには背丈のある植木を
・インドアグリーンとプライベートガーデン
14 居室に馴染むワッフル状のインナーガーデン 羽根北の家
・室内に溶け込む植栽
・躍動的な緑
15 3坪の空間に設える茶事動線 ガエまちや
・梯子で茶室に上がる露地の庭
・混植したコケの変化を楽しむ
16 花見座敷をはめ込む滞留のデザイン 長良川の二世帯住宅
・浮遊感のある花見座敷
・風情ある溶岩石の築山
・駐車スペースを兼ねるファサード
・明暗のあるくの字のアプローチ
・水の景色、タケの景色、山野の景色
【 3 ロケーションに寄り添う】
17 既存庭の引き算でつなぐ内外の抜け 刈谷の家
既存庭の森を最大限に生かす
・通り土間へ抜けるアプローチ
・裏庭からの視線の抜けを連続させる
・見える景色を適切に間引く
18 地元の植生を引き継ぐという選択 つくばの家
・成長する緑のトンネル
・四季を彩る大きなモミジ
・地元の木を使うという選択
・階段室の景
・視線を覆い隠すケヤキ
19 通りや家人の記憶を起点に修景する M Residence
・既存樹木の残し方
・水音の風情を引き立てる修景
・和の景色と素材の取り合わせ
20 異国情緒を愉しませるディテール 岡崎の家
・石のペイブメントと下草の賑やかな列植
・南国の植生を楽しむ仕掛け
21 住まいの履歴と風情を組み合わせる 理科まちや
・元住人の履歴を引き継ぐ石畳
・既存庭を利用しながら景色を再構築する
・植物の成長のコントロールで蘇る景色
【 4 まちにひらく】
22 公私のバッファーとなる緑 O-clinic/O-house
・来院者を出迎える躍動感ある緑
・ デッキに広がる伸びやかな木々の枝ぶり
23 木立に佇める通りの顔をつくる TG Residence
・まちを豊かにする駐車場の緑地帯
・木陰が主役のしっとりした雑木の庭
・季節の花を楽しむ
・小さな開口部から緑を感じさせる
24 まちの森に育つ原っぱの庭 志賀の光路
・庭が延長した芝生の駐車スペース
・開口の少なさを利点と捉える
column1 商店街の小さな森 Yanagase forest project
column2 リハビリのための緑道 近石病院
第2部 作庭の進め方
1 敷地と建築を読む
・庭だけでは完結しない
・現地調査のポイント
・庭主との対話
2 木を選ぶ
・その場にふさわしい木を考え抜く
・木に立つ瀬を与える
・役割の見極め方
・木の育った環境を想像しよう
・庭の主役になる樹木
・ファサードを彩る
・“隠す”から“楽しむ”への価値転換
3 移ろう景色をつくる
・自然を切り取ったかのような居心地
・木洩れ日の美しさ
4 素材の選び方
・低木・下草類
・グランドカバープランツ
・石の選び方
・植物以外のグランドカバー
5 事例で読む木の役割
・緑でつなぐ立体的な回遊動線:ガレリア織部
・庭ができるまで(1) 土入れと景石据え付け
・庭ができるまで(2) 木を植える